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大阪高等裁判所 昭和47年(く)81号 決定

少年 I・K(昭二八・八・一九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成の抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用するが、要するに、原決定の処分が著しく不当である、というのである。

そこで、本件事件記録および少年調査記録を検討して考えるに、本件非行事実は傷害と外国人登録証明書不携帯各一回であつて、事案としては比較的軽微であるということができる。しかしながら、少年には非行歴があり、また中等少年院に入院中、精神分裂病の疑いで医療少年院に移送されて治療を受けた病歴があるところ、現在ではその精神分裂病としての人格崩壊が明らかで、少年をこのまま社会内で生活させておくと、突発的に傷害その他攻撃性の行動に出る危険性が高く、現在少年に対してはその精神障害の治療を受けさせる必要が極めて大きいと認められる。しかるところ、少年鑑別所の鑑別結果によれば、少年に対しては保護は不適であり、精神病院への入院を考えるべきであるというのであるが、原決定も説示するように、少年の保護環境は少年を監護し精神病院に入院させて治療を受けさせうる状態ではなく、また精神衛生法にもとづく知事による入院措置が今直ちに少年に対しとられ得る確実な見込みもなくて、現在のところ少年が精神病院で治療を受けることを期待できないこと、少年の精神分裂病は非行に結びつくもので、その治療と非行性の除去とは医療少年院における矯正教育により可能であることなどに照らすと、現在の段階では少年を医療少年院に送致して医療を主とする矯正教育を授け、少年の精神障害と非行性の治療を図るほかないと認められる。したがつて、原決定の処分は正当であつて、これが不当であるとは考えられない。

よつて、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中武靖夫 裁判官 家村繁治 野間洋之助)

参考 原審決定(大阪家裁堺支部 昭四七(少)一七一二号 昭四七・一一・一三決定)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

一 非行事実

別紙のとおり

二 適用法条

第一の事実につき刑法二〇四条、第二の事実につき外国人登録法一三条一項、一八条一項七号

三 処分の理由

少年にかかわる少年調査票、大阪少年鑑別所鑑別結果通知書を併せ考えると少年の建全なる育成を期するためにはその性格、これまでの行状、環境の状況等に鑑み医療少年院に収容して指導訓練を施すのを相当と思料する。

よつて少年法第二四条第一項第三号

により主文のとおり決定する。補足事項参照

(非行事実)

少年は、

第一 昭和四七年一〇月一七日午後七時四〇分頃、東京都港区○○×丁目××番××号所在の飲食店「○○○○」において、同所で飲酒中の○沢○夫(五二歳)が歌をうたつたことに腹を立て、いきなり同人の顔面を手拳で数回殴りつけ、更に同人の腹部を膝けりするなどの暴行を加え、よつて、同人に対し加療約五日間を要する口腔内打撲および切創の傷害を負わせた。

第二 大阪府和泉市市長より外国人登録証明書×××××××号の交付を受けている韓国人であるが、前記日時場所において、前記外国人登録証明書を携帯しなかつた。

ものである。

(補足事項)

少年は、昭和四五年七月一七日当庁において、強制わいせつ、窃盗、恐喝、恐喝未遂事件により中等少年院送致を受け浪速少年院に収容されたが、精神分裂病の疑により昭和四六年一月二一日医療少年院に入院となり、翌四七年五月二四日同少年院を仮退院した。仮退院後、しばらく叔父の所で働くなどしたが、同年七月下旬単身上京して就労していたもので、たまたま飲食店で食事中酒を飲みながら歌をうたいだした他の客が自分を馬鹿にしているように思われてきて、いきなり本件非行に及んだもの。

少年は現在精神分裂病による人格の総合性のくずれがすすみ、攻撃性の行動におよぶ危険性が高い状況にあり、精神障害者としての治療が必要とされる状態である。しかしながら、少年の母も精神障害者で監護能力はなく、(父は昭和四四年死亡)、姉は二一歳で監護能力に乏しく、監護能力を有するとみられる少年の叔父に対しては少年自身敵意を抱いており、叔父の方にも熱意がみられない状況で少年を監護できる者もなく、在宅処分にした後入院措置をとるまでの間についても不安がある。しかも、現在の少年の病状では精神衛生法二七条、二九条による入院措置の対象者となるか否かについても疑問がある。本件非行事実は重大な事案ではないが、現時点においては、少年を医療少年院に送致して少年の精神的かつ性格的欠陥の治療をはかるのが相当であると思料する。

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